【読感】『新ネットワーク思考 〜世界のしくみを読み解く』 / アルバート=ラズロ・バラバシ

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言語の背景にあるネットワーク、細胞内のタンパク質同士をつなぐリンク、人間の性的関係、コンピュータ・チップの配線図、細胞の代謝、インターネット、ハリウッド、ワールド・ワイド・ウェブ、共著関係でリンクされる科学者のウェブ、経済の背後にある複雑な協力関係のウェブ——これらはほんの一部の例にすぎない。このようなネットワークがどれもみな同じ法則によって記述されるのである。(p313)

特に関連性が見いだせないこれらの事例。これらはいったいどんな共通の法則を持っているのか?その答えを求めるのなら、「ネットワークを考えなければならい」と著者であるアルバート=ラズロ・バラバシは言います。

話は、プロイセン東部にある花咲き誇る美しい町ケーニヒスベルクにかかる橋から始まります。町に架かる七つの橋をそれぞれ一度だけ通って、すべての橋を通ることは可能か?オイラーは「そんな通り方はない」ことを証明しました。このエピソードで重要なのは、彼が、町の陸地をノードとして、橋をリンクとして、単純化してその構造を捉えたところにあります。なぜなら、「グラフやネットワークの構造は、この世界を解く鍵」だからです。

オイラーによって生み出されたグラフ理論。そこから、エルデシュ・レーニィのランダム・ネットワーク理論につながっていきます。この理論によれば、どのノードも近似的に同程度のリンク数をもつことになります。しかし、現実のネットワークは本当にそのような仕組みを持っているのでしょうか?

現実のネットワークの事例としてあげられた航空便のルートマップでは、少数のハブ空港が何百という小さな空港とリンクされています。つまり、「どのノードも近似的に同程度のリンク数」をもっていない。この現象をランダム・ネットワーク理論はうまく説明してくれません。ここで登場するのがハブという概念です。

現実のネットワークのほとんどは、わずかなリンクしかもたない大多数のノードと、莫大なリンクをもつ一握りのハブが共存しているという特徴を持っている。これを数式で表したのがベキ法則なのだ。…希少な存在であるハブが、ネットワークをひとつにまとめているのである。(p102)

そして、この“ベキ法則”に従うネットワークこそがこの書のキー概念である“スケールフリー・ネットワーク”なのです。このネットワークのアルゴリズムの主な特徴は二つが“成長”と“優先的選択”です。

A 成長 与えられた期間ごとに新しいノードを一つずつネットワークに付け加えてゆく。この手続きは、ネットワークは一度に一つだけノードを増やすという点を強調するものである。

B 優先的選択 新しいノードは既存のノードと二つのリンクで結ばれるものと仮定する。あるノードが選択される確率は、そのノードがすでに獲得しているリンク数に比例する。二つのノードから一つを選ぶ場合であれば、一方が他方より二倍多いリンクをもつなら、そのノードが選ばれる可能性は他方の二倍になる。

AとBを繰り返すたびに、ネットワークに新しいノードが一つ付け加わり、ウェブはノード一つ分だけ大きくなる。成長と優先的選択を取り入れたモデルは、ハブの存在を説明することに初めて成功した。…このモデルは、スケールフリーのベキ法則を説明することに成功した最初のモデルとして、“スケールフリー・モデル”の名で知られるようになった。

ランダム・ネットワークは静的なグラフでモデル化されていたが、スケールフリー・モデルの登場は、現実のネットワークがダイナミックな系であり、ノードやリンクが新たに付け加わることでたえず変化している様相を示しています。その後、新参者がどうやって成功に至るのかを説明する“適応度モデル”やマイクロソフトのOS市場での圧倒的シェアの理由を説明する“ボーズ・アインシュタイン凝縮”などによって、さらに発展をとげます。

全ノードの80%に何らかの故障が生じても、残りの20%のノードが緊密な相互連結性をみせるくらい、エラーへの耐性が強い、つまり、頑健であるスケールフリー・ネットワークですが、根本的な弱さを抱えていることもわかっています。それは、攻撃に対する脆弱性です。故障は多くの場合、小さなノードで起こります。ですが、このネットワークで重要な役割を担っているハブに集中的にダメージを受けた場合、あっという間にネットワーク全体に支障をきたしてしまうのです。

アルバート=ラズロ・バラバシは、将来的には「地球という惑星の皮膚であるセンサーは、環境もハイウェイも人間の身体も、ありとあらゆるものを監視するようになるだろう。…惑星地球は、相互連結された何十億ものプロセッサーやセンサーからなる、巨大なひとつのコンピュータに進化しようとしているのである。」(p229)と予測します。地球はどんどん「小さな世界」へと縮まっていく。そうなれば、ますますこの「攻撃への脆弱性」というこのネットワークのアキレス腱への懸念を無視できなくなってきます。相互連結が強まる流れは変えられません。いかに相互連結された世界に柔軟性を持たせることができるかが重要になってくるのでしょう。

そして、話は、インターネットや人間の細胞にまでおよび、“スケールフリー・モデル”の射程の広さが明らかにされていきます。第十四章では、このネットワークモデルをベースにした経済への考察が入ってきます。ソーシャルネットワークが隆盛をみせる現在において重要だと思われたのは、「グローバルな経済においては、自分だけ故障して他には影響を及ぼさないような組織などひとつもない。」(p301)だから、「自社の直接的損得だけしか考えない自己中心的なスタンスでは、ネットワーク思考はできない」ということでした。競争関係と捉えられた相手もパートナーとして認識しなければならなくなってくる。自社だけでなく、競争相手、お客様、パートナーなどなど、ありとあらゆるステークホルダーと相互連結し、一つのやわらかいエコシステムを形成し、いかにそれを発展させていくことができるか。そのことが組織の発展のカギを握る。そんな気がします。

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